きっとそんなに思えるものがある訳じゃあない。いつだって人生は取捨選択で、何より捨てるものが多いんだ。分かってる。
分かってるけれど、それを嘆くことも悲しむこともなく笑い飛ばせる相手が俺はいつだって…、
「暑い…」
じっとりとした暑さだ。
周囲に存在する湿気も自らに纏わり付く汗も、そう何もかもが己の不快指数を跳ね上げていく。
されど体内に巡る水分量をどこか足りなく感じては外界にソレを求めるのだからこれはなんとも。なんとも。
こういうのがまあ、あれだ、なんといったか。とりあえず個の巡りは世の巡りに通じ正に真理なのだろう、とか。
「暑い…」
「五月蝿ぇよさっきから」
「暑いものは暑いんだから仕方ないだろ…それに重い」
どけよ。いつまで俺にのし掛かってんのお前。
そう言えばより体重をかけてきた天の邪鬼な男。だから重いって。
…大体にしてそれにだな、お前も暑いだろうが。
素肌が触れ合っていればそりゃあもう、隠すものも無いのだから当然至極に理解出来ますとも。そもそもにして先程まで大声では言えない(小声でさえ憚ってしまう)いかがわしい行為を行っていたのだ…暑いに、暑いに決まっている。汗だくだよちくしょう。
「重い…暑い…」
「……」
「暑いってジュダル」
「…っとに五月蝿ぇ奴だな」
苛立ったように軽く上半身を起こした相手…ジュダルは軽く眉間に皺を寄せている。そうしてやや思案した後に俺にとって迷惑でしかない提案を出した。
「んなにまだ元気ならもう一、二回はヤれんな」
「いやいやいやお前なに言ってんの。俺もう無理、やだ」
「ダラダラダラダラ下らねーこと言ってるよかよっぽど有意義だろうが」
「生産性も無い行為ってとこから既に意義なんて無いだろ」
「ハッ、それがおまえの言い分かよアリババクン」
不整脈?違うな…とにかく嫌な鼓動の跳ね方をした。
「…ジュダル」
「もう黙れよ」
ギシリと鳴った寝台の軋みがやけに耳に残った。
「ん、んんッ…ぅ、ぁあっ、」
わざといい所を外して動く相手に思わず恨みがましい視線を送ってしまう。そんな俺に余裕の笑みを浮かべては深く奥へ突き刺してくるのでもう…なんか…。
「っ、ッ、…ぅ、ン」
「物足りねぇんだろ」
「る、っさ…分かってるなら…」
「たまには可愛いオネダリの一つでもしてみろよ」
ニヤニヤ笑う顔に一発お見舞いしてやりたい。無理だけど。
俺が可愛いオネダリ?…したらしたでどうせまた馬鹿にしたように笑うだけの癖に。
「ッ、!?アッ、…ヒッ、ぃ!」
いきなり激しく内部を擦られて呼吸が止まった。ヒュ、と空に鳴く喉が滑稽で。
「おら、喘げよ」
いつもみたいに馬鹿みたいに、
おまえはただ、
ジュダルの細められた目に射抜かれるようで。狭まった世界は誰も歓迎してる訳じゃないのに。
「ぁッ、ゃ、アーッ、!ぁあゥッ、ヒッ、…ひ、ィっ、」
「…ッは、暑ぃな…」
ポタリポタリと落下していく汗に視覚も触覚も嗅覚も塗りつぶされていく。やがて無音になって無色になってブラックアウト…もう慣れた。
「あぁぅッ、ひ…っ、ン!」
「…アリババ、」
「?…っ、ん、む」
落とされ重ねられた唇の厚みも暑さも遠くに聞こえる蝉の声も何もかも…それら全てをやけに遠くに感じながら、けれど彼とのキスだけは嫌いじゃないと意識の端で考える俺がいた。
そうだ、そうさ、
嫌いじゃあない。
いつだって取捨選択の世界の中、
けれど未だに俺はこの熱を手放せずにいた。
廃
色
フ
ァ
ー
ス
ト
(愛とかそんなんじゃなくて)
(依存ほど重くもなくて)
(だけどこれもきっと幸せとか、)
(たぶんそういう、そんなのが、いい)
***
ふうこ様、この度は50000打企画にご参加下さり誠にありがとうございました!
ジュダアリでR18…との事でしたが、ご希望に果たしてこれで応えられているのかどうなのか…非常に温くて申し訳ないです!
何ともいえない微妙なお話ですみません!(土下座)
それでは本当にありがとうございました!!
(針山うみこ)